BUSINESS JOURNAL

経営人材が採用できない -原因は、採用プロセスの外にあります-

経営企画やCFOクラスのポジションは、募集を出してから半年、1年と長期化してしまうことが珍しくありません。エージェントを複数社使っても紹介数が伸びず、ようやく候補者と会えても「決め手に欠ける」「他社に決められてしまう」といったご相談を、経営者・人事責任者の方からよくいただきます。

ただ、「経営人材が採用できない」という状態は、採用プロセスだけの問題として片付けられるものではありません。多くの場合、その背景には、要件定義や意思決定プロセスといった、組織としての設計課題が隠れています。本記事では、経営人材の採用が長期化する原因と、採用活動を超えて取り組むべき見直しのポイントを解説します。


1. 「経営人材が採用できない」と、何が起きるか

経営企画・CFOクラスのポジションが埋まらないまま時間が経つと、業績の低迷と内部統制の劣化という、2つの形で経営に跳ね返ってきます。

戦略立案や資金調達、管理会計といった機能を担う人材が不在のまま意思決定が属人的に進んでしまうと、事業の打ち手が後手に回るだけでなく、チェック機能が働かないまま重要な意思決定が通ってしまうリスクも高まります。社長や既存役員が本来の役割に加えて経営企画・財務機能まで兼務し続けることになり、経営トップの時間が日々のオペレーションに奪われ、本来向き合うべき中長期の意思決定に十分な時間を割けなくなるという副作用も見逃せません。

さらに、採用の長期化は社外にも伝わります。候補者との面談が重なるたびに意思決定が遅れると、「意思決定が遅い会社」という印象を与え、優秀な候補者ほど早々に他社を選んでしまいます。採用の長期化は、単に「良い人に出会えない」という採用活動上の課題にとどまらず、経営そのものの脆弱性として表れてくるのです。


2. なぜ、経営人材は採用できないのか

経営企画・CFOクラスの採用が停滞している企業を拝見すると、業種や企業規模を問わず、共通する原因が4つあります。

2-1. 原因①:人材要件が「スーパーマン」化し、不明確になっている

よくある状態
– 経営戦略の立案から、IR、資金調達、管理会計、場合によってはM&Aまで、すべてを高いレベルで求めている
– 「即戦力」という言葉が独り歩きし、自社の事業フェーズに合わない経験値まで要件に含めてしまっている
– 関係者ごとに「本当に求めている経験」の重みづけが違う
– 上場企業での経験を求めながら、スタートアップならではのスピード感も期待するなど、前提が矛盾している

見直しのポイント
すべてを高水準で満たす人材は市場にほとんど存在しません。今の事業フェーズで、最初の1年に何を最優先で任せたいのかを関係者間で一つに絞り込むことが、要件定義の出発点になります。特に見落とされがちなのが、「最初の1年で何を任せるか」と「3年後にどう役割が広がるか」を分けて考えるという視点です。すべてを最初から満たす人材を探すのではなく、最初の役割を明確に絞り込んだ上で、その先の広がりは入社後の実績に応じて任せていく、という段階的な設計にすることで、候補者の母数そのものを広げることができます。

2-2. 原因②③:経営を理解する選考関与者の噛み込みが弱く、意思決定プロセスも整理されていない

よくある状態
– 最終判断者が誰なのか、選考の入口で明確になっていない
– 経営を理解している役員が選考プロセスに十分関与せず、人事だけで候補者を見極めようとしてしまう
– 役員が多忙で、面接日程の調整だけで数週間かかる
– 一次選考後のフィードバックが遅く、候補者を待たせてしまう
– 選考の途中で新たな評価者が加わり、それまでの合意事項が振り出しに戻る
– 企業自体の成長の道筋(中期的にどう事業を伸ばしていくのか)が候補者に見えにくく、意思決定に踏み切れない

見直しのポイント
経営人材クラスの候補者は、複数社から並行して声がかかっていることがほとんどです。意思決定のスピードと、経営を語れる人物の選考への関与そのものが、他社との比較における競争力になります。誰が・いつまでに・何を判断するのかを、選考開始前に決めておくことが有効です。

2-3. 原因④:報酬・ポジション設計が、既存の給与テーブルの延長線上にとどまっている

よくある状態
– 既存の等級・給与テーブルに当てはめようとして、市場水準との乖離が生まれている
– 役員登用やストックオプションなど、報酬以外のインセンティブ設計が検討されていない
– オファー後に条件面の再交渉が発生し、心証を損ねてしまう
– 現経営陣との報酬バランスを気にするあまり、市場水準を下回るオファーになってしまう

見直しのポイント
経営人材の採用では、既存の等級制度とは切り離してポジション設計を検討することが必要になる場面が多くあります。候補者と早い段階で報酬レンジの認識をすり合わせておくことで、終盤での条件面のミスマッチを防げます。


3. 対策:要件・意思決定・報酬の軸を、経営陣の中で揃える

ここまでの4つの原因に共通しているのは、いずれも経営陣の中で意思決定の軸が揃っていないという点です。経営人材の採用に着手する前に、「最初の1年で最優先に任せたいテーマは何か(経営戦略/資金調達/管理会計/IRなど)」「最終的な合否を判断するのは誰か、判断までのステップは何段階か」「報酬レンジは既存の等級制度の中で収めるのか、別立てで検討するのか」の3つを関係者間で確認しておくことをおすすめします。

これらが曖昧なまま募集を始めてしまうと、良い候補者に出会えても意思決定の途中で機会を逃してしまいます。


4. 採用後の定着まで見据えた設計を

経営人材の採用は、入社して終わりではありません。採用の段階では「経営の中枢を担ってほしい」と伝えていたのに、実際に入社してみると、既存の役員の意思決定に対する関与が限定的で、情報共有も部分的にとどまり、名ばかりのポジションになってしまっている――このようなギャップは、経営人材ほど早い段階で敏感に察知します。

採用の段階で語っていた役割・裁量と、入社後に実際に渡される権限に差があると、転職市場に戻ってしまう決断も早くなります。採用時のメッセージと、入社後の実態を一致させておくことが、定着の鍵になります。


5. 採用プロセスの改善だけでは終わらない

ここまで採用プロセス上の打ち手を見てきましたが、根本的な原因である「要件が曖昧」「意思決定の軸が揃っていない」という状態は、採用活動だけを見直しても解消しきれません。これらは本質的に、経営体制そのものの設計課題だからです。

要件定義や意思決定プロセスの整理は、採用活動の入口であると同時に、経営陣の役割分担や組織構造そのものを見直すきっかけにもなります。外部の第三者を早い段階から巻き込むことで、社内の力学から一歩離れた立場から、経営陣それぞれの発言の背景にある本音を引き出し、要件を中立的に整理できることも少なくありません。人事の役割も、候補者を探すことだけでなく、経営陣それぞれの期待値を引き出し、一つの要件定義として言語化することに広がっていきます。


まとめ・結論

経営企画・CFOクラスの採用がうまくいかない背景には、市場に候補者がいないという以上に、要件の絞り込み・意思決定プロセス・報酬設計という社内側の整理に見直しの余地があるケースが多く見られます。そしてこれらの課題は、採用活動の枠を超えた、経営体制そのものの設計課題でもあります。

市場にいない人物像を追いかけるのをやめ、今の事業フェーズに本当に必要な役割を一つに絞り込むことが、遠回りに見えて最も早い近道です。

私たちGlobal Career Incubator(GCI)では、経営者・採用責任者としての実務経験を持つコンサルタントが、経営企画・CFOをはじめとする経営人材のご紹介と、要件定義・意思決定プロセスの整理まで一気通貫でご支援しています。採用プロセスの改善にとどまらず、組織・経営体制の見直しも含めてお悩みの場合は、お気軽にご相談ください。

執筆者

株式会社Global Career Incubator 代表取締役CEO 井川真一

略歴:防衛省勤務(国家I種)およびオーストラリア国防省勤務を経てビジネスの世界へ。 不動産大手経験後、不動産ベンチャー立ち上げや国内ファンド・国内事業会社・海外テック企業での経営および採用を経験したのち、当社創業。

企業経営・採用責任者としての経験をもとに、企業の経営・組織・採用・育成と、個人のキャリア選択・能力発揮を支援。日本と世界の接点で、企業と個人それぞれの課題に向き合っています。